E3 2019での発表から、約2年半。いよいよ「エルデンリング」が発売します。
本作でディレクターをつとめる宮崎英高氏は、いくつかのメディアを通して、「エルデンリング」という作品の輪郭を徐々に明らかにしてきました。
例えばそれは、オープンなフィールドを採用していることや、馬に乗れたり、ジャンプが出来ること。あるいは、ステルスでの戦闘が可能ということや、プレイヤーと共に戦う霊体と呼ばれる存在についてです。
今回の動画で注目したいのは、これらのゲームシステムが「なぜ採用されたのか」という部分。
さらに、「エルデンリング」を遊ぶべき理由とも言える、ソウルシリーズに共通する核となるコンセプトについて、ディレクターの宮崎氏がこれまでに語った内容をもとに、紹介していきたいと思います。
史上最高のゲームの作り手
昨年11月。世界最大級のゲームアワード「ゴールデン・ジョイスティック・アワード」にて、史上最高のゲームを決める「Ultimate Game of All Time」の投票が行われました。
『マイクラ』や『ブレスオブザワイルド』など錚々たるメンツを抑え、見事栄冠に輝いたのは、フロム・ソフトウェアの「ダークソウル」。
この「ダークソウル」を手掛けたのが、本作エルデンリングでディレクターを務める宮崎英高氏です。
「史上最高のゲームを作った宮崎英高氏による最新作」。
この触れ込みだけでも、ゲームを趣味にしている人なら、もれなくエルデンリングを遊ぶべき理由になると思うのですが、今回はもう少し掘り下げて、なぜ、宮崎氏の作品がこうもゲーマーに愛されるのかを紐解きたいと思います。
ゲーマーに愛される理由
宮崎氏の作品は、なぜゲーマーに愛されるのか。この理由を探るにあたって、まずはソウルシリーズの特徴をおさらいします。
ソウルシリーズにおけるシンボルとは何でしょうか。
そう、「死」です。
宮崎氏の手掛けるゲームの多くのが、死にゲーと称されます。
こう呼ばれる理由は、それらのゲームが「プレイヤーキャラクターが何度も死ぬこと」を前提としてデザインされているから。
こうしたデザインは、宮崎氏のゲームディレクターとしての原点とも言うべき「デモンズソウル」から受け継がれています。
本来、プレイヤーキャラクターの死とは、プレイヤーにとって最も避けるべき「失敗」。
そんな失敗を重ね、「不快な気持ち」が許容範囲を超えたとき、プレイヤーは遊ぶのを止めてしまうかもしれない。そうなれば、それこそ「ゲームをプレイしてもらう側」にとっては最大の「失敗」となりかねません。
にも関わらず、宮崎氏がソウルシリーズと呼ばれる作品群で「死を前提としたゲームデザイン」をつらぬくのはなぜでしょうか。
それは、これらのゲームのベースに、一つのテーマがあるから。そのテーマとは「達成感」。
宮崎氏はデモンズソウル発売後のインタビューのなかで、次のように述べています。
攻略法を考える楽しみや,うまくいったときの達成感を得るためには,やはり失敗が必要な要素だと考えました。その最も分かり易い形が,Demon’s Soulsでも採用した「死」だったんです。ですから,最初の企画書には「ソウル体(一度死ぬと肉体を失った状態になる)で死んだらキャラロスト」って書いてあったくらいです(笑)。そのくらい“死”というものを念頭においたゲームデザインを考えていました。
出典: なぜいまマゾゲーなの? ゲーマーの間で評判の“即死ゲー”「Demon’s Souls」(デモンズソウル)開発者インタビュー
すなわち、ソウルシリーズに共通する「死を前提としたゲームデザイン」は、成功の対局にある失敗を強調することで、いざ訪れる成功の瞬間を、強烈な「達成感」へと繋げるためのもの。
たしかに、ソウルシリーズにおける個人的な思い出を振り返ってみても、すんなりと攻略できたエリアよりも、何十回も失敗したエリアのほうが、当時の達成感や空気感などを今でも鮮明に思い出せます。
- スモウ&オーンスタイン
- マンイーター
- 無名の王
- 芦名一心 …etc
困難を乗り越えた先に待っている、他に類を見ない「圧倒的な達成感」。これこそが、ソウルシリーズ最大の魅力であり、ゲームに情熱を注ぐプレイヤーを虜にする理由ではないでしょうか。
なお、シリーズ一作目のデモンズソウルの開発が始まったとされる2006年頃を振り返ると、「ユーザーのゲーム離れ」に危機感を覚えた任天堂による、顧客拡大のためのライトユーザーに向けた施策が成功を収めている時代です。
操作を簡素化した、カジュアルに楽しめるゲームが台頭するなかで、死を前提とした高難易度のデモンズソウルの存在は極めて異質だったはず。
しかし、だからこそ、骨太で遊びごたえのある「達成感」に溢れたデモンズソウルという作品は、熱心なゲーマーにとっては、ダイヤのような輝きを放って見えたのかもしれません。
こうした「達成感」というテーマは、以降のシリーズでも一貫していることから、宮崎氏のゲーム作りにおいて、非常に重要な要素と考えられているのだと思います。
宮崎氏曰く、今作「エルデンリング」が目指したゲーム像は「ソウルシリーズの王道進化」。
ならば、ソウルシリーズの根底にある「達成感」というテーマは、エルデンリングにおいても、ゲーム体験の核となるはずです。
挑戦を繰り返すなかで、困難を打開する方法を発見し、踏破による達成感に酔いしれる。
こうしたプロセスはシリーズを重ねるごとに磨き上げられ、今作「エルデンリング」では、シリーズ史上・最高の体験として、ゲームファンを熱狂させるに違いありません。
ソウルシリーズの課題
とはいえ、これまでのソウルシリーズを振り返ると、こうした「達成感」を味わえるのは、一部のプレイヤーに限られました。
なぜなら、「死を前提としたゲームデザイン」は、遊ぶ人を選ぶから。
例として、Steamのグローバルプレイデータを見てみましょう。
DARK SOULS , 25.8%
DARK SOULS™ II , 38.2%
DARK SOULS™ III , 23.6%
SEKIRO 23.3%
※ マルチエンディングのゲームでは、最も割合の高い実績を参照(2/15 朝5時)
これまでのシリーズでエンディングに到達したプレイヤーの割合を調べてみると、平均して約30%。
プレイした人のうち、10人に7人はクリアを諦めています。
このエンディング到達率にも現れていますが、ソウルシリーズは、たびたび難易度の高さが引き合いに出されます。難しすぎて、なかには情緒が崩壊する人もいるくらい。
いくら、他に類を見ない強烈な達成感が得られるとは言え、幾度となく繰り返される死に、すべてのプレイヤーが耐えられるわけではありません。
これまでソウルシリーズを敬遠してきた人の多くは、おそらく、ちまたで聞くこうした難易度の高さに辟易したからではないでしょうか。
もちろん、ただ難しいだけでは、これほどまでに評価されるはずはなく、死をベースにしたゲームを成立させるために、いくつもの趣向が凝らされています。
たとえばそれは、次のようなもの。
死の納得感
- 理不尽でなく、回避や気付きの余地があったように思える死
- 操作性が悪いせいで死なないこと(自分のせいで死ぬこと)
再挑戦の意欲を奪わない
- 固有性の高いアイテムは失われない
- 固有性の低いアイテム(ソウル)は失われるが、頑張れば取り戻すことができる
- =死でモチベーションを断ち切らない
死による成長
- 敵や罠の配置を固定することで学習による成長をプレイヤーに実感させる
ソウルシリーズの「高い難易度」は、あくまで、プレイヤーに達成感を提供するための一つの手段に過ぎません。開発者が真に体験して欲しいと願うのは、困難の先にある達成感。
マゾゲーと呼ばれることもある本シリーズですが、実は、プレイヤーが困難を乗り越えるためのに、あれやこれやとおせっかいを焼いてくれている、そんな慈愛に満ちたゲームと言えるでしょう。
こうした配慮があるからこそ、死を繰り返すような高い難易度が成立し、「ゲームオブザイヤー」や「ゲーム史上最高の作品」という栄誉を授かるほどの高い人気を獲得できたのだと思います。
しかし、これらの仕組みをもってしても、「遊ぶのをやめてしまう人」がいるのは紛れもない事実。
作り手の想いを想像してみると、プレイヤーを驚かすための仕掛けをあちらこちらに用意したのに、それらが体験されることなく、途中で遊ぶのを放棄されてしまうというのは、とても悲しいことのはず。
おそらく、こうした課題感は、実際に宮崎氏も抱いていたものと思われます。
というのも、「エルデンリング」のシステムを眺めていると、まさに、こうした課題を解決したいという意志が感じ取れるんです。
今作のゲーム体験で核となるのが「困難を乗り越えた達成感」であろうことは、さきほど紹介した通りです。これは、従来のソウルシリーズから受け継がれたもの。
そして、シリーズで磨き上げた「達成感にまつわるプロセス」を、「いかに多くのプレイヤーに体験してもらうか」という挑戦が、今作「エルデンリング」における要なのだと感じています。
間口を広げるシステム
少し長くなってきたので、一度ここまでの内容をまとめます。
- ソウルシリーズの核となる体験は、達成感。
- 達成感のために必要なのは、高い困難。
- 困難に疲れ、達成感を体験しきれないプレイヤーもいる。
そして、3つ目を課題と捉えて、「いかに、より多くのプレイヤーに困難を乗り越えてもらうか」という挑戦を行うのが、本作「エルデンリング」ではないか、というのがここまでの意見です。
もちろん、プレイヤーを達成感に導くための工夫は、これまでのシリーズでもあちこちに散りばめられていました。「困難に対するアプローチの幅をもたせることで、攻略のスタイルを限定しない」という点はソウルシリーズの魅力の一つです。
しかし、エルデンリングはそれ以上。
徐々に明らかになる情報を眺めていると、今作が「ダークソウル4ではない」こと、つまり、文脈が制限されない完全新作ということも手伝って、より多くの人に楽しんでもらうための、思い切った舵取りをしているように感じました。
例えばそれは、次のようなこと。
まずは、純粋なアクションの上手さによらず、戦略と工夫で困難を打開できること
今作では、遺灰というアイテムを使用することで、それぞれの遺灰に応じた「霊体」と呼ばれるNPCを召喚することが可能です。霊体は味方として共に戦ってくれる頼れる存在で、宮崎氏いわく、それぞれがかなり個性的とのこと。
ですから、仮に、苦手と感じる敵や、敵の配置がいやらしくて攻略が難しいと感じるシチュエーションに出くわしても、アイデアや戦略次第で、困難を突破することが可能なります。
また、霊体は成長させることができるので、例えば、魔法をメインに戦いたい場合は、盾役となる霊体を育てて、自分は後衛に徹するとか、逆に、後衛となる霊体を育てて、自分の攻撃をサポートしてもらうとか、それぞれのプレイヤーの好みやスタイルに応じて、過去作以上に様々な遊び方ができそうです。
また、新しく採用された「しゃがみ」を使えば、姿勢を低くして闇や草むらに隠れ、敵に気付かれないように進行できます。
もちろん、剣戟による近接戦闘のアクション性も健在です。過去作では、相手の攻撃を弾くアクションに「パリィ」がありましたが、今作からは「ガードカウンター」と呼ばれるアクションが追加されます。
パリィはタイミングを外すとダメージを受けてしまうので、初心者にとってはリスクの大きい技でした。しかし、ガードカウンターは敵の攻撃をガードした後で攻撃ボタンを押せば成立するので、経験やアクションの上手さによらず、初心者でも積極的に狙っていけます。
続いて、ボスを倒せなくても進行不能になりづらいこと
手に汗握るボスとの死闘はソウルシリーズにおける山場とも言うべき瞬間です。
幾度もの死を超えて、ついにボスを攻略したとき、圧倒的な達成感が押し寄せます。それは、他のゲームでは味わえない感動です。
しかし、ゲームに求める価値やモチベーションは人それぞれ。繰り返される死を前に燃える人もいれば、ゲームの進行が滞ることで熱意が冷めてしまう人も当然います。
こうした課題を解決すべく、今作では、手強いボスのせいでゲームを進められなくなったということがないよう、できるかぎりの配慮をしているとのこと。
例えば、今作はオープンなフィールドを採用していることから、過去作以上に、攻略や探索の順序に決まりがありません。
ですから、苦手なボスは後回しにして、レベルが上がったり、効果的な武器が手に入るまでは他のフィールドを冒険するなど、プレイヤーのペースにあわせて、自由に攻略することが可能です。
なお、本作はマルチプレイに対応しています。オンラインにはたくさんの仲間がいるので、一人では突破できない困難も、助けを借りればきっと乗り越えられるはず。
次に、エリア攻略の選択肢が増えたこと
先に述べた通り、今作ではオープンなフィールドが採用されています。
過去作以上に、攻略の順序に制限が少ないため、プレイヤーのペースで、自由に冒険が楽しめそう。
苦手なエリアがあれば後回しにできますし、「詰んだ」という状況には陥らないと思います。
また、今作ではクラフトが登場。
フィールドに点在する素材で消費アイテムを作れるので、仮に冒険の途中で弓矢がなくなったとしても、冒険を中断することなく攻略を続けることができそうです。
さらに、今作では馬に乗れます。
純粋に、フィールドが広くなったことで、移動速度を上げるシステムは必然だったのかもしれませんが、過去作では難しかった「敵との戦闘を避ける」という選択肢が取れるのは良いところ。
あとは、今作から時間の概念が加わりました。
時刻に応じて敵の種類や配置が変わるようなので、そのときの装備や能力に応じて攻略しやすい状況を見極めるなど、工夫の余地が広がりそうです。
なお、こうして攻略の自由度が増す一方で、次に何をしたらいいか迷わないためのガイド機能も用意されています。もちろん、導きに従うのも、無視するもプレイヤー次第。
最後に、マルチプレイのハードルが下がったこと
今作では、マルチプレイ周りのシステムが大きく改善されました。
システムの詳細を述べると長く伝わりづらくなってしまいそうなので、かいつまんで紹介しますと、過去作と比べて、マルチプレイを望んでいるプレイヤー同士のマッチングが促進される仕組みとなっており、マルチプレイがより身近なものとなっています。
ソウルシリーズのマルチプレイは、ボイスチャットのような密なコミュニケーションは不要で、ゆるく他プレイヤーと繋がれる気楽なものです。
一人で何度も壁にぶちあたることが快感になっているわけでなければ、気軽にマルチプレイを楽しむのがよさそうです。
このように、今作では、攻略の自由度が増し、困難を乗り越えるための選択肢が数多く用意されています。
これは決して難易度が低いというわけではなく、作品との向き合い方や、遊び方次第で、様々なプレイ感覚が得られるということ。ハードな手応えを求める人には、きっとそれに見合う選択肢があるはずです。
まとめ
現在、「フロム・ソフトウェア」というブランドには、「手応えのあるゲームを作る」というイメージが定着しています。
こうしたイメージは、大半がポジティブな文脈のなかで語られますが、なかには、ユーザーを不必要に身構えさせてしまうというネガティブな一面もあります。
実際に、ソウルシリーズを始めとした過去作は、死を前提とした、高難度のゲームが多いです。それは「エルデンリング」も同じで、高い困難が待ち受けているのは確実です。
しかし、今作には、困難を乗り越えるための選択肢が豊富に用意されていますし、オンラインに繋げば、頼りになる仲間がたくさんいます。それに、過去作では「困難を乗り越えること」を強制されていたかもしれませんが、今作では攻略や進行の順序はプレイヤーの自由ですから、それぞれのペースと自分にあったやり方で、広大な世界と重厚な物語を堪能できます。
「大人も子供も、おねーさんも。」。
スーパーファミコンの傑作「マザー2」のキャッチコピーのように、今作は様々なユーザーに愛されるポテンシャルを秘めた作品です。
きっと、これまでソウルシリーズを避けてきた人も、今作を通して、フロムゲーの魅力を体感できるはず。
そして、いつしか、困難を歓迎している自分に気付くと思います。
ぜひとも一緒に、フロム・ソフトウェア史上最大の作品、エルデンリングを楽しみましょう!